Seunghoon Choi

AMOCのリスクを減らすには何を検証すべきか:AIと宇宙インフラの思考実験

宇宙日よけがAMOCのリスクを下げるという仮説は未証明だ。まず何を観測し、検証すべきかを考える。

目次

北大西洋の上を暖かい表層海流と冷たい深層海流が流れ、太陽側には小さな宇宙の日よけモジュールが浮かぶイラスト

太陽光を少し減らすという表現は些細に見えるが、実際には地球全体の気候システムに影響を与える。

まず思考実験をしてみる。太陽と地球の間、約150万km離れた場所に薄い遮蔽膜を多数置く。地球全体に入る光を減らせる可能性はあるが、北極やグリーンランドの夏の日射だけを選んで制御できるかは実証されていない。

AMOCは大西洋の巨大な海流循環だ

AMOCはAtlantic Meridional Overturning Circulationの略だ。日本語では大西洋子午面循環と呼ばれる。言葉は重いが、絵は単純だ。暖かい海水が大西洋の表面を北へ進む。北大西洋に着いた水は冷え、塩分が濃くなり、重くなる。重くなった水は下へ沈む。その深い水はまた南へ流れる。この海流の流れがAMOCだ。AMOCはヨーロッパの気候、熱帯地域の雨、海面、漁場、海が炭素を吸収する能力まで左右する。NOAAも、AMOCを暖かい水を北へ送り、冷たい水を南へ循環させる大西洋の海流システムとして説明している。

問題は、この海流循環が弱まる可能性があることだ。北大西洋で水が下へよく沈むには、二つの条件が必要だ。水が冷たいこと、そして十分に塩辛いことだ。ところが地球温暖化は、その二つを同時に変える。海は温まり、グリーンランドの氷河と北極の氷が溶けて淡水が入る。淡水は塩分が少ない。水は塩辛さを失い、軽くなる。すると下へ沈む力が弱くなる。すると北大西洋で水が下へ沈む流れが弱まる。

北極はAMOCを左右する要点だ

北極を冷やそうという話は、北極だけを見ようという意味ではない。北極の白い氷は太陽光を跳ね返す役割を持ち、AMOCが弱まるかどうかを左右する要点の一つだ。白い氷は太陽光を多く反射する。暗い海は太陽光を多く吸収する。氷が減って海が露出すれば、海はさらに多くの熱を吸収する。すると氷はさらに速く溶ける。いったん始まると速度が上がるこの悪循環が危険だ。NASAも、北極の海氷が減ると地球表面がより多くの太陽光を吸収すると説明している。これは遠い未来の抽象的な話ではない。今進んでいる物理現象だ。白い覆いが消えると、地球はより多くの熱を吸収する。

だから北極の夏を詳しく観測する必要がある。この時期の日射を減らした場合、北大西洋に入る熱と淡水が実際にどれほど変わるかは、気候モデルと観測で先に検証しなければならない。

宇宙の日よけでまず気温上昇を遅らせる

太陽光を少し減らす方法として、成層圏に粒子を散布する案、雲を明るくする案、宇宙空間に装置を置く案などが議論されている。どの方法がより安全で、元に戻しやすいかはまだ確認されていない。大気、海洋、生態系への影響と、運用を停止した場合の危険まで検証する必要がある。太陽と地球の間にあるL1付近に、小型の太陽光遮蔽モジュールを置く案もその一つだ。L1は地球から約150万km離れたラグランジュ点で、ESAも地球と太陽の重力が釣り合う地点の一つと説明している。

重要なのは、巨大な傘一枚ではなくモジュール構造だ。小さな遮光板を多く送り、それぞれの角度を調整する。正面を向ければ光を多く減らし、斜めにすれば少なく減らす。不要なら横向きにして、ほとんど遮らないようにする。折りたたみと展開を繰り返すより、傾けるほうがよい。宇宙で薄い膜を何度も折れば故障が増える。むしろ広げた状態で角度を変えるほうが安全だ。地球に入る日差しを少し減らす、宇宙用の日よけだ。

この考えが完全に新しいわけではない。2006年、Roger AngelはL1付近に小さな宇宙機の群れを置き、太陽光を約1.8%減らす構想を論文として出した。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡も、折りたたまれた状態で打ち上げられ、宇宙で鏡と遮光膜を展開した。もちろん地球の気候を調整する装置は、ウェッブよりはるかに大きく難しい。それでも、薄い膜を折って打ち上げ、宇宙で広げるという基本発想は、すでに宇宙工学の中にある。

ただし、この装置を気候問題の最終解決策として見てはいけない。太陽光を減らしてもCO2はそのまま残る。海洋酸性化も解決しない。化石燃料を燃やし続ければ、問題はまた大きくなる。

宇宙日よけは実証済みの解決策ではない。AMOCのリスクに与える効果は、モデルと観測で確かめる必要がある。まず進めるべきなのはCO2排出の削減と、すでに排出されたCO2の除去だ。

太陽と地球の間に小さな宇宙の日よけモジュールが並び、北極と北大西洋へ入る光を少し減らす科学イラスト

宇宙の日よけは気温上昇を遅らせられるが、温室効果ガス排出を減らさなければ地球温暖化の問題は残る。

先に気温上昇を遅らせ、その間にCO2を減らす

宇宙日よけはCO2を減らせない。研究すべきなのは、大きな副作用を生まずに北極と北大西洋への追加の熱を減らせるかどうかだ。AMOCの危険な弱化が観測されても、介入の効果と副作用を先に検証しなければならない。

第二に、その時間でCO2排出を減らし、すでに出たCO2を除去する。順序が重要だ。宇宙の日よけを動かしておきながらCO2除去に失敗すれば、日差しを減らす量を下げた瞬間、追加の熱流入がまた増える。するとAMOCのリスクを下げるために作った装置が、一時的な措置ではなく、維持し続ける依存構造になる。だから出口計画が必要だ。CO2濃度がどの程度下がれば遮光率をどれだけ下げるのか、AMOCの観測値がどの水準まで回復すれば北極の夏の遮光をどう下げるのかを、あらかじめ決める必要がある。遮光はCO2除去量と結びついていなければならない。別々に動けば危険だ。

AIはAMOCを観測し続け、危険を計算すべきだ

ここでAIが必要になる。AIがすべき仕事は、派手な宇宙の想像図を描くことではない。AMOCを観測し続け、危険を予測し、太陽光をどれだけ減らすべきかを計算することだ。見るべきデータは多すぎる。北極海氷の面積と厚さ。グリーンランド表面の融解量。ラブラドル海とイルミンガー海周辺の水温と塩分。北大西洋への淡水流入量。雲と降水の変化。中緯度の天気の変化。海がどれだけ炭素を吸収しているか。CO2除去技術が実際にどれだけ動いているか。

これを数人の人間が勘で判断することはできない。衛星、海洋ブイ、地上センサー、船舶観測、気候モデル、炭素会計をあわせて検討する必要がある。AIは、こうした資料から変化を早く見つけ、複数のシナリオを比較する作業を支援できる。ただし、太陽光をどの程度減らすか、誰が危険を引き受けるかといった決定を、AIの計算だけで下すことはできない。AIは地球を統治する存在ではないが、人間が見落としやすい複雑な変化を見つける役割は果たせる。

衛星、海洋ブイ、気候モデルのデータがつながり、北大西洋の海流変化を見るAI観測網の科学イラスト

AI観測網は予測値を当てるだけで終わらず、人間が遅れて気づく気候変化をより早く確認させる。

SpaceXは火星より先に地球の海流循環を見るべきだ

今の人類に、このような仕事を実際の産業として押し進められる会社があるなら、SpaceXのような会社がまず思い浮かぶ。ロケットを頻繁に打ち上げ、衛星を大規模に運用し、宇宙インフラを工場のように作る会社。その能力の最初の使い道は、火星都市よりも地球の気候応急網であるべきだ。気候観測衛星網を細かく敷く必要がある。AMOCを見る海洋観測網もさらに強くする必要がある。宇宙の日よけの小型モジュールを実験し、太陽光圧、姿勢制御、長期耐久性を検証する必要がある。AIモデルはそのデータを受け取り続け、計算し続ける必要がある。火星にはいつか行けるかもしれない。だがAMOCが崩れれば、地球の海流、雨、農業、海面が先に変わる。ロケットが本当に文明のための技術なら、最初の貨物は火星都市の部品ではなく、地球の海流循環を観測し、守る装備であるべきだ。

AIデータセンターも責任を負うべきだ

AIを速く発展させるには、より多くの計算が必要だ。より多くのチップ、より多くの電気、より多くの冷却が必要になる。ここで矛盾が生じる。地球温暖化を解決すると言うAIが、化石燃料の電力で動くなら、話の筋が通らない。AIデータセンターには条件が必要だ。炭素を出さない電力で動くべきだ。電力網にどれだけ負荷をかけているかを公開するべきだ。水をどれだけ使っているかも公開するべきだ。そして計算資源の重要な一部を気候問題に使うべきだ。

AI産業がこれから社会的な許可を得るには、「私たちは電気を多く使うが、その電気で人類の最大の問題を解く」という証拠を出す必要がある。言葉より結果が必要だ。CO2除去の費用を下げ、電力網を安定させ、産業工程の排出を減らし、AMOCリスクをより正確に予測する必要がある。それができないなら、AI加速はあまりに小さく贅沢なゲームになる。

AMOCを守ることがAI時代の最初の大きな宿題だ

AMOCがいつ、どれだけ弱まるかはまだ不確実だ。公開文章で「すぐ崩壊する」と断定してはいけない。IPCCもAMOCが21世紀に弱まる可能性は高いと見る一方で、2100年以前の急激な崩壊は低いと評価している。同時に、最近の研究は、モデルが危険を過小評価している可能性や、弱化幅がもっと大きい可能性を警告している。こうした問題は、確率だけを見て流せるものではない。危険が小さく見えても、起きたときの被害が大きすぎるなら保険をかける。AMOCはそういう問題だ。止まれば再び動かすのは難しく、影響は一つの地域で終わらない。

AI時代の気候目標は、地球平均気温の一つの数字だけに限るべきではない。北極、グリーンランド、北大西洋を精密に観測し、排出削減とCO2除去を進める必要がある。宇宙日よけは実証済みの緊急策ではなく、効果と副作用、統治を検証する研究対象として扱うべきだ。

AIは広告の最適化だけでなく、AMOCの観測や気候リスク分析にも使うべきだ。ロケットと衛星も海流の観測に役立てられる。今必要なのは、AMOCをより正確に観測し、未検証の介入と、すぐ実行できる排出削減策を明確に分けることだ。