Seunghoon Choi

繰り返しの肉体労働から判断と感覚が要る仕事まで:AIが仕事を代替する6〜8段階

体を使う仕事は頭を使う仕事より遅れて置き換わる。それでも、繰り返せて、失敗を測れて、正解が収束していく仕事は、結局AIとロボットに渡っていく。

目次

AIが奪っていく体の仕事、繰り返しの肉体労働から判断と感覚まで

ロボットは力が足りないからではなく、作業現場ごとに条件が変わるため、同じ動作を繰り返しにくい。

AIが正解のある仕事を先に奪っていくのなら、次の問いは自然に出てきます。体を使う仕事は安全なのか。翻訳、コーディング、要約、分析は、ソフトウェアの中で完結する仕事です。間違えてもやり直せばいい。でも体を使う仕事は違います。ロボットが動かなければならず、物がぶつかり、材料が壊れ、人が怪我をすることもあります。だから肉体労働は、頭を使う仕事より遅れて置き換わります。でも「遅れて置き換わる」というのは「安全だ」という意味ではありません。物理世界での試行錯誤のコストが高いから、時間がよりかかるだけです。ロボットが見て、つかんで、動いて、失敗から学ぶコストが下がれば、体を使う仕事も順番に揺らいでいきます。

今回は、AIが仕事を奪う6段階から8段階までを見ていきます。6段階は繰り返しの肉体労働。7段階は手先の器用さと現場での試行錯誤を経なければならない仕事。8段階は判断と感覚が要る仕事です。ここで大事な基準はひとつ。繰り返せて、失敗を測れて、正解が収束していく仕事は、結局AIとロボットに渡っていきます。

6段階:繰り返しの肉体労働

体を使う仕事の中で最初に揺らぐのは、繰り返しの肉体労働です。工場で同じ部品をつかみ、同じ位置にネジを締め、同じ箇所を溶接し、倉庫で物を運び、決められた道筋に沿って掃除をし、決まった手順どおりに梱包する。そういう仕事です。

こうした仕事は、もうずいぶん前から自動化が進んできました。自動車工場のロボットアームは、珍しい光景ではありません。一日中同じ動作を繰り返す仕事では、人は機械より有利ではないのです。人は疲れ、集中力が落ち、ミスをする。機械は同じ動作をずっと繰り返します。

ただ、昔のロボットは環境がきちんと整っていないと動けませんでした。部品は決められた位置になければならず、動作はあらかじめ組まれた経路の中でしか行えません。少しでも違えば止まってしまう。今、変わってきているのがまさにこの点です。AIがカメラで周囲を見て、物の位置を把握し、少しずれた状況に合わせて動きを調整する。物が少し傾いていてもつかみ、経路が少し変わっても計算し直す。すると、ロボットがこなせる繰り返し作業の幅が広がります。

ここで置き換わるのは、肉体労働の全部ではありません。繰り返しが多く、環境をある程度コントロールでき、失敗してもすぐ直せる肉体労働です。工場、倉庫、厨房、物流センターのように環境を設計できる場所ほど、先に変わります。逆に、毎回環境が違い、人と絶えずやり取りが必要で、ミスのコストが大きい仕事は、もっと遅れてやってきます。つまり、体を使うから安全だ、というわけではないのです。体を使う仕事の中でも、繰り返しの仕事はいちばん先にロボットに渡ります。

7段階:手先の器用さと現場の試行錯誤が必要な仕事

次は、手先の器用さと現場での試行錯誤を経なければならない仕事です。ここからはぐっと難しくなります。ただ同じ動作を繰り返す仕事ではないからです。溶接、配管、修理、施工、微細な組み立て、医療処置、実験室の作業のように、指先の調整と現場での判断が一緒に入ってきます。こういう仕事は長く持ちこたえます。理由は、手の技術が神聖だからではありません。現実で一度失敗するコストが高いからです。

コードは間違えればもう一度実行すればいい。文章は気に入らなければ書き直せばいい。でも溶接を間違えれば材料が壊れます。配管を直し損なえば水漏れが起きます。施工を間違えれば、また壊してやり直さなければなりません。医療処置を間違えれば人が怪我をします。実験を間違えれば試薬と時間が飛びます。

現実世界の試行錯誤は高くつきます。だからAIとロボットの学習は遅い。たくさん試してたくさん間違えなければならないのに、その「間違える経験」ひとつひとつが、お金と時間とリスクを要求します。でも、これは永遠に安全だという意味ではありません。実験室では、すでにロボットが物質を混ぜ、反応を見て、データを読み、次の実験を決めるという流れが増えています。製造現場でも、センサーとカメラが作業の状態を読み取り、ロボットがより微細な動作を学習しています。

最初は整った環境から始まります。そこから少しずつ、変数の多い環境へ出ていく。失敗のコストが下がり、シミュレーションと実データが積み上がれば、手先の器用さも次第に学習できる領域になります。7段階の核心はこれです。手先の器用さと現場の試行錯誤は、遅れて置き換わる。でも、置き換わらないわけではありません。現実で学ぶコストが高いから、遅れてやってくるだけです。

そのコストが下がった瞬間、この領域も揺らぎます。

繰り返しの肉体労働から判断と感覚が要る仕事まで:AIが仕事を代替する6〜8段階

現場感覚は、作業者が失敗と修正を繰り返して作った判断基準である。

8段階:判断と感覚が要る仕事

最後は、判断と感覚が要る仕事です。人はよくこう言います。「これは長年やった人にしか分からない」「これは勘だ」「これはデータじゃ無理だ」。ある程度は当たっています。現場には言葉で説明しにくい感覚があります。エンジンの音だけで異常に気づく整備士、患者の表情や雰囲気からおかしさを感じ取る医師、工程データを見ていて数字では説明できない不安を覚えるエンジニア。でも、ここで感覚をひとかたまりにして見てはいけません。感覚は二つに分かれます。ひとつは、時間が経てば当たり外れがはっきりする感覚です。このエンジンはもうすぐ壊れそうだ。この患者は特定の病気の可能性が高い。この顧客はもうすぐ離れそうだ。この工程条件なら不良が出そうだ。

こうした感覚は、言葉で説明しにくくても、結局は予測です。時間が経てば、当たったか外れたかが分かります。当たり外れがはっきりすると、AIは強くなります。膨大な事例を見て、人が見落とす微細な信号をつかみ、どんなパターンが実際の結果につながるのかを学習する。ベテランの勘のように見えていたものの一部は、結局、採点できる予測へと変わります。この感覚は、AIが奪えます。

もうひとつは、高度な文脈を読む感覚です。

高度な文脈を読む感覚は、単なる予測とは違います。この方向に自分の金を賭けるか。この事業を押し進めるか。この人を信じて一緒にやっていくか。今、リスクを取るか。何をより大切なものとして見るか。

ここでの感覚は、当てるだけの仕事ではありません。状況、人、責任、タイミング、損失の可能性を一緒に読んだうえで選ぶ仕事です。間違えれば、自分が失う。お金も失い、時間も失い、評判も失う。これは単に当てる問題ではなく、損失を引き受ける問題です。AIは、人が何を選ぶかを予測できます。でも、自分自身で何かを望むことはありません。もっと正確に言えば、AIは法的にも社会的にも損失を引き受ける主体ではないのです。

だから8段階の結論は単純ではありません。感覚も一部は渡っていきます。特に、時間が経てば当たり外れがはっきりする感覚は、AIのほうが上手にやれます。でも、間違えたときに自分が損を引き受け、その選択の責任を自分の名前で取る感覚は、別の問題です。この地点から、次の段階が開きます。能力の問題ではなく、権限と責任の問題になるのです。

体の仕事も、結局は正解が収束する部分から揺らぐ

6段階から8段階までを一行でまとめると、こうなります。体を使う仕事も、正解が収束する部分から揺らぐ。繰り返しの肉体労働には、動作の正解があります。きちんとつかんだか、きちんと運んだか、きちんと組み立てたか、確認できます。

手先の器用さと現場の試行錯誤は、遅いけれど、結果が出ます。溶接がうまくいったか、修理が成功したか、実験結果が出たか、確認できます。ベテランの勘も、一部は時間が経てば採点されます。故障が起きたか、診断が当たったか、顧客が離れたか、不良が出たか、確認できます。確認できれば、それはデータになります。データが積み上がれば、AIが学びます。

だから肉体労働と感覚は、頭を使う仕事より遅れて揺らぐだけで、原理そのものは同じです。正解が収束するものは、AIが追いついていきます。ただ、実際の設備や人が動く仕事は、ソフトウェアより遅い。失敗のコストが大きく、ロボットが動かなければならず、安全の問題があり、法的責任がついてまわる。だから体の仕事は、より長く持ちこたえます。でも「長く持ちこたえる」という言葉と「安全だ」という言葉は、違います。

これから残るのは、能力ではなく権限だ

ここまでは能力の話です。AIとロボットができるようになれば、繰り返しの肉体労働も減ります。手先の器用さと試行錯誤も、だんだん自動化されます。ベテランの勘も、予測できる部分は置き換わります。では、最後に残るものは何でしょうか。正確に当てる能力ではありません。手を動かす能力でもありません。たくさんやってきた経験そのものでもありません。残るのは、責任を取って選ぶ立場です。間違えたら、誰が損をするのか。誰が最終決定を下すのか。誰が法的に責任を取るのか。誰がリスクを取って押し進めるのか。

この問いは、AIの能力だけでは答えられません。社会が誰に権限を与え、誰に責任を問うのか、という問題です。だから次の段階からは、性格が変わります。AIのほうが上手かどうかではなく、人間が決定権を渡すかどうか、という問題になるのです。次回は9〜14段階を見ていきます。決定権限、防御システム、人が理解できない結果、映像と声、判断をともなう肉体労働、価値判断が、どうやってAIに渡っていくのかを見ていきましょう。